土の器

先祖が眠る裏山の土で器を作ることができる。

土器を作るワークショップの撮影をさせて頂いて一番驚いたのはそのことだった。感動を通り越して、畏れに近い気持ちを抱いた。

原料となる土を取りに行こう、と登った山は、登ると言っては大袈裟な、数秒で上がることができる裏山だった。 参加者の方たちが土を掘りはじめた場所のすぐ手前と先の方に、ワークショップを主宰する勅使河原さんのご先祖様のお墓があり、それがなんとも示唆的だった。

なぜなら、あとで調べて分かったことだが、土はさまざまな生き物の屍と鉱物とが混ざり合ってできている。だから、その土でできた器の中にはかつて地上で生きていた生物たちがいる、と考えることもできる。命をつないでいくために私たちは飯を食わなければならない。食事とは生き物の命をいただくことだ。それは分かっているつもりではあったけれど、「器」を作ること自体、生き物の恩恵に預かることなのだとは思いもしなかった。

言われてみれば、石油だって、元は太古の昔の生物の死骸と言われている。その石油から作られるお皿はあまりにも生き物の姿とはかけ離れているから想像がつきにくいけれど、一度先祖が眠る土で器を作ってみれば、私たちの生活が過去の生物の営みの上にあるという実感が湧くかもしれない。

ワークショップの講師は土器作家の寺﨑彩子さん。アスファルトの原料の話の流れだったか、「世の中のもので自然からできていないものはないんですよね」とにこやかに話されていたのが印象に残っている。土器を作り始めた理由は「世の中にはもう器が溢れているから、これから器を作るんだったら元の状態(土)に戻しやすい土器を作っていこうと思った」とのことだった。しなやかな発想をする自然な方。土器を作るということは、素朴だけれど、それを体験する人に今の暮らしを見直させる強い力があると思った。

ワークショップの主宰は「たねのアトリエ」の勅使河原香苗さん。今回の土器づくりを皮切りに、豊かな自然が残る秩父の山の中にアーティストを招いてさまざまな活動を行なっています。