2020.01.27-02.02

「新鮮」

春菊

2019年春、「素敵な畑があるから一緒に行こうよ」と料理人の友人に誘われ、成田空港 にほぼ隣接する農園Tomに出掛けた。綺麗な光で写真を撮ろうと思って、夜明け前か ら見学させてもらった。まだ真っ暗で何も見えないというのに、Tomさんは「プロだねー! その気持ちに僕も応えますよ!」と言って畑を案内してくれた。懐中電灯がいらないくらい に明るくなって、周りの状況が見えてきたときの感動は忘れられない。Tomさんの畑は、 小動物の気配のする、おとぎ話にでも出てきそうな森に囲まれていた。畑には収穫を終え て好き放題に伸びた春菊の花々が咲き乱れていた。6時になるとほぼ同時に、その日一 番の飛行機が数十メートル先の森の上空に小さく現れ、なぜ落ちないのかと不安になる くらいゆっくりと下降していった。音は轟音だったか、キーンという金属音だったか、思い出 せない。気がつけば、畑がまとっていた神聖な雰囲気はなくなっていた。足元にあった植え たばかりであろう作物の苗に視線を落とすと、小さな土の塊が、大きくなり始めた葉に乗っ かっていた。それは自然の法則を無視した不自然な光景であるのだけど、まったく不思議 ではないのだった。野うさぎか、狸の仕業だろうか。Tomさんがいじったあとかもしれない。 いずれにせよ、そこには生き物の痕跡があった。                             2019年6月12日、千葉県山武市

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水産資源

水産資源 水面下で魚がうごめいているのが分かった。漁師が網を引き上げきると、程なくして、海 面に水しぶきが立ち始めた。ビチビチと魚が体をぶつけ合う音と、漁師の「やれー…こー …やれー…こー…」という静かな掛け声が対照的だった。海中から引きずり上げられた魚 が身を跳ね上げるエネルギーは、そのまま地球のエネルギーのように思えた。                 2019年10月16日、三重県尾鷲市

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真善美

自分が食べるために育ててる、と園主が言い放つナス。曰く「この時期は毎日これよ」。美味 しいものが美しい。そんなシンプルでいいのだろうか。農法とか、品種とか、そういう御託を 並べる必要はないのか。真善美を兼ね備えたものに私はまだ出会ったことがないけれど、 生い茂る草をかき分けた先に眠るこの紫の実は、もしかしたらそんな理想を体現している のかもしれないと思った。                                    2019年9月9日、長野県南箕輪村